本書は、精神科医の宮島先生がご自身のうつ病体験を元に、その原因や治し方を医師と患者両方の視点からわかりやすく解説されており、大変興味深い内容になっています。イラスト図解版は、大きな見出しとイラストから自分に必要なところを探して読み返せるので便利です。
私の場合、うつ病治療を始めた当初は医師の指示に従って真面目に処方薬を飲んでいましたが、数年経過しても治る気配がなく焦っていました。少し良くなったかと思えば、すぐに状態が悪くなり、いつも不安だったのを覚えています。しかし、長期の服薬は明らかに体調に影響していました。頭がずっとぼんやりしていて何も手につかない。何かを決定しようとしても、今は症状や薬の影響でこう考えているだけで、回復したら気持ちが変わるかも…と躊躇しますし、自分が何をしたいのかさえわからない状態でした。
もしかしたら、うつ病って薬だけでは治らないのでは???と疑念が湧きはじめていました。重い症状の時は、やはり薬の助けが必要だったと思いますが、肌荒れがひどくなり、血液検査でも異常が出始めていました。出来れば早めに服薬をやめたかったので、何か方法はないかと色々と調べているうちに、どうやら「薬では治らない派の医師」も一定数存在することが分かってきました。本書は、その中でたどり着いたうちの一冊です。
20年ほど前の話ですが、通っていた心療内科では食事療法や、認知行動療法、自律訓練法など、薬以外の選択について、ほとんどお話はありませんでした。専門が違うのかもしれませんが、患者は自力で調べることが出来ない状態のことが多いので、せめて概要を記したパンフレットがあれば良かったなと思います。カウンセリングもなく、5分ほど現状報告して処方を受けるだけでした。(再診で5分は標準の長さらしいです)
近年では、医師やカウンセラーの方がYoutubeやSNSで詳しい情報を発信したり、患者コミュニティをオンラインで立ち上げるなど、情報が溢れています。その中から自分に合う医院や治療法を探すことができ、時代が変わったなと感じます。
本書の中で、宮島先生は、うつ病の根本原因である「生き方」を修整することが寛解に繋がると述べられています。「精神科医は心の専門家ではなく、薬による対処療法の専門家だと思う。」という言葉にはハッとさせられました。精神科医自身も病気の見立てに自信を持てなかったり、救えなかった患者について悩み苦しむ時もあり、無理をすればうつ病にもなってしまう一人の人間であることを、ありのままに書かれています。病院に通い、言われた通りに服薬さえすれば治してもらえると、私も心のどこかで思っていました。それは過度な依存とも言えます。
医師であり患者でもある宮島先生の言葉は実体験に基づいているので、回復に向けてやるべきことを的確に教えてくれます。考え方を変える、食生活を変える、人間関係を変えるなど、一つ一つ丁寧に解説されており、確かにそれをしないと良くなったとしてもまた繰り返すのが当たり前だよね…と納得することばかりです。「自分の主治医は自分である」という言葉がある通り、他人任せでは根本的には解決できません。何故うつ病になるような考え方や行動をしてしまっていたのか、深い自己理解が必要なようです。
『うつヌケ』の著者の田中圭一先生が、あとがきでこちらの本を推薦されていました。田中先生も同じ本を読んでいたと知り、なんだか嬉しかったです。
「世の中に「うつ病から脱出するための本」は数多くあると思います。 その中で、ボクが宮島賢也さんの著書を手にしたのは偶然にすぎませんでした。 でも、その一冊との出会いが10年近くうつトンネルを彷徨ったボクを出口へ導いたのです。」 (『うつヌケ』あとがきより)


