「心が雨漏りする日には」 ちくわが宙を舞う、思い出のらもさん

ちくわと中島らも

心が雨漏りする日には 中島らも

うつ回復期に読む書籍としておすすめするには、劇薬過ぎるかもしれない…。けど、あえて紹介したい本書は、小説家・劇作家・エッセイスト・ミュージシャン・コピーライター・俳優など、多彩な顔を持つ中島らも先生が、主に双極性障害とアルコール依存症について語っているかなりスパイシーなエッセイです。

私がらもさんの書籍を読み始めたのは、1996年初版『ネリモノ広告大全』あたりからなのですが、20代になってから、らもさんとわかぎゑふさん率いる劇団、笑殺軍団リリパット・アーミーに夢中になりました。最初に観たのはたしか2001年公演『虎を連れた女』だったと思います。設立15周年のサイン入り記念パンフレットを持っています。

Wikipediaによると、「2001年に中島はリリパット・アーミーから引退」とありますので、らもさんが本格的に演劇活動をされていたのは私がハマるずっと前のことだったようです。

リリパの脚本に共通するのは、ギャグ満載の面白さの中に純粋な美しさや物悲しさをピリリと効かせるストーリーではないでしょうか。お腹がよじれるほど笑った後に、キュンとさせる仕掛けがクセになります。

特に、むせかえるほどムーディーなムード歌謡を大人数で歌い踊りながら人を追い詰める手法「ミュージックハラスメント」、女性は男装、男性は女装をして演じる「男女入れ替え芝居」など、エンターテイメントに満ちていました。カーテンコールの後に、はもちく(協賛のカネテツデリカフーズの商品)を客席に撒く「ちくわの狂い投げ」も毎回楽しみでした。

個性的な役者さん達が魅力的なのはもちろん、客演のらもさんの存在感もすさまじかった。らもさんがステージにぬっと現れるだけでセリフを言う前から客席に爆笑の渦が巻き起こっていました。黙って居るだけでもう面白かったのです。

友達と一緒に終演後のサイン会に恐る恐る並び、らもさんとわかぎゑふさんにサインと握手をしていただいた記憶は20年以上過ぎた今もまぶたに残っています。

『心が雨漏りする日には』が発行されたのは2002年。ということは、2001年に舞台で拝見したらもさんは、かなり体調が悪かったのでは…。ゆら~りとしていていながら眼光鋭い佇まいは独特の雰囲気を醸し出していました。

らもさんは相変わらず書籍やメディアでご活躍中だったので、てっきり双極性障害やアルコール中毒は寛解しているのだと思っていました。これからもずっとリリパでの怪演を見ることができると信じていました。

当時は『ガダラの豚』『人体模型の夜』など、主に小説の方を好んで読んでいたので、病気の事情を詳しくは知らず、ただ面白く舞台を観ていたのですが、らもさんが生きている時間に一瞬だけ立ち会えた本当に貴重な機会でした。

麻薬取締法違反で逮捕されたのが2003年の2月、『牢屋でやせるダイエット』の初版が2003年8月、亡くなったのは2004年7月、突然で、早過ぎて…悲しみを超越して「さすがらもさんや…。」しか言葉が出ませんでした。

私はその後うつ病が悪化し、外出もままならず観劇マイブームは終焉を迎えました。うつになってしまったら、それ以前からは信じられないようなミスを連発しますし、落ち込んだり、混乱したりが日常となり、どんどん自信を失っていきます。いい大人なのに、感情がコントロールできない、失業してお金が稼げない、親に申し訳ない、体が動かない…人の目が気になったり、友達に対する劣等感や恥ずかしさもあります。

そんなボロボロな状態の時、らもさんのエッセイを手に取ると、栄光と闇、躁と鬱、プラスマイナスの振れ幅が想定外過ぎてショック療法のような効果がありました。何というか、自分はボロボロだと思ってたけど、らもさんに比べたら甘いのでは…?むしろかすり傷なのでは?という感覚に陥ることができたのです。

らもさんは、正月に餅を買えないくらい貧しくなっても、アルコールと薬の作用で大人用オムツを履く事態になっても、全く芯が折れることがありません。

また、頼りにしていた主治医の精神科医が精神的に狂ってしまうという事件も起こったそうですが、医師も人間だから仕方ないとはいえホラーすぎる展開でした。信頼していた精神科医の処方薬の副作用で口述筆記が必要なほど視力が悪化するなんて、恐ろし過ぎます。

私なら一つでも潰れそうな大変なエピソードがてんこ盛りに綴られている本書ですが、全てを創作活動に昇華させ大活躍してしまうのが、らもさん。どこか飄々として、最悪な状況も笑いに変えて書き飛ばす、人間の底力を感じます。そんならもさんに寄り添うご家族、劇団の皆さんも強くて愛情深い。

らもさんなら、ダメな私のことも笑い飛ばしてくれるんじゃないか。「いいんだぜ、それで。」と肯定してくれるんじゃないか。読んでいるうちに、小さいプライドなんか捨ててもう一度がんばろうかな。他人に笑われたって怒られたって、カッコ悪いけどまあ、いいじゃない。と思えてきます。

らもさん、たくさん笑わせていただきありがとうございました。

※2024年12月7日から2025年2月2日まで没後20年特別展「中島らも ぼくがうまれたまち」が兵庫県尼崎市で公開され、開始から1か月で2500人以上の来場者が集まったそうです。

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