『うつヌケ』は、著者の田中圭一先生がご自身のうつ病を乗り越えた後、16名の方にインタビューを行い、うつ病体験と寛解するためのポイントを集積し、そこから得られた知見を分かりやすく伝えてくれる漫画です。
各人がどんな状況で発病したのか、寛解のキッカケは何だったのかなど、一般的に質問しづらいけど気になるテーマについて8ページずつと短くまとめられており、要点を20話でサクッと読むことができます。
田中先生は、本書の冒頭「田中圭一の場合 ①〜③」の中で、うつ病を発症する原因は「自分をキライになったこと」うつ病を治すには「自分を好きになること」と簡潔に述べられています。
実際には、それぞれの現実的な生活の中で「自分キライ」から「自分まあ許せる」に向けて徐々に軌道修整し、自己理解を深めていく長い道のりがあり、それを端折った言い方だと思われますが、明快な答えに冒頭から希望の光を感じました。
なぜ現在の自分がキライでどうなれば好きになれそうか、変えられることと変えられないことは何かをじっくり考えてみると寛解への糸口が見つかりそうな気がします。紙に書き出してみたり、意識的に環境や関わる人物を見直していくのも大事だと思います。
本書を読み進めると、うつになる人の共通点の一つに過去のトラウマがあるのが分かります。特に幼少期や思春期の恐怖や悲しみは深層心理に深く刻まれてしまうようです。
本書から話は飛びますが、医師・解剖学者の養老孟司先生の著書『自分は死なないと思っているヒトへ』の中で、養老先生が大人になっても人に挨拶をするのが苦手だった理由が「幼少期に亡くなった父親の最期に別れの挨拶をしなかったことが原因だと気付く」というお話があります。
幼いなりに別れの挨拶をしないことで父親を引き止めようとしたのかもしれないと、ご自身で推察されていました。養老先生のエピソードはうつ病の話ではなかったのですが、うつヌケ「第10話 代々木忠の場合」と、とても似ていると感じます。
代々木監督は、2003年ごろから激しい不安感やさみしさに襲われ体調が悪化し、うつ病を発症されました。心療内科の薬だけでは治らず苦しんでいた時、友人から聞いた「十字真言を唱えるといいですよ」という言葉の通り試してみると体の激痛がスーッと消えるという体験をします。そのことから、この苦しみは自分の心の中にあると確信し、原因を探るために自らトランス状態になり心にダイブします。
そして過去の記憶の映像をたどり、3歳の時に母親を亡くした時、大きな悲しみを抑圧し封じ込めたことが原因だと突き止めます。その後、心に溜まった辛さをすくい上げることで徐々に回復されたといいます。
誰しも普段は認識できないけれど決して消えない想いがあり、心の深淵から現在の感情や行動に影響を与えているということでしょうか。体の痛みはそれに気づくためのサインなのかもしれません。
傷ついた記憶と向き合うのは辛いことですが、私自身は無理をしなくても人生のどこかで過去の自分を癒すチャンスは来るのではないかと思っています。誰かと再会した時、思い出の場所に立った時、特定の香りを嗅いだ時など、些細なことから理由のない悲しみの謎が解けた経験があります。
心の奥底に眠っている傷の理由が見えてきた時には、既にそれを受け止めるだけの力が回復しているのかもしれません。
本書では他にも、気圧の変化や寒暖差の大きい時はうつの悪化に備え休むこと、朝目覚めた時に自分を褒めるアファメーションを行うこと、趣味に没頭する、責任を背負いすぎず人を頼る、コーチングを受ける、など症状と付き合っていくための具体的な対処法が多数紹介されているので、自分に合いそうなものが見つかればチャレンジしてみるのも良さそうです。
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